人が未来を考えるのをやめられない理由から知る、楽観主義のデメリット・悲観主義のメリット-『明日の幸せを科学する』から知る“未来を予測する脳のメカニズム”②

ハーバード大学の人気教授 ダニエル・ギルバート氏の『明日の幸せを科学する』を通して、“脳のメカニズム”をご紹介していきます。

今回はその2回目です。

明日の幸せを科学する

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『明日の幸せを科学する』の主題-人間は未来をどう想像しているのか

選択の基準は「どうすれば未来の自分を幸せにできるか」

私達は日々、さまざまな選択をしていますが、その選択の基準は
どうすれば未来の自分を幸せにしてあげられるか
ということでしょう。

健康に悪いものを食べないようにしたり、
嗜好品を控えようとしたり、
人間関係を壊さないように愛想笑いを浮かべたりするのは、いずれも未来の自分が幸せに過ごせるためにしていることですね。

時には後先を考えずに行動することもありますが、
私達は多くの場合、未来の自分を喜ばせるための選択をしています。

求めていたものが手に入ったのに喜べない…

しかし求めていたものが手に入ったにもかかわらず、思ったほどの幸せを感じることができなかったり、「どうしてこんなもののためにがんばってきたのか」と、手にしたものを不要と感じたりすることさえあります。

転職を希望したり、パートナー選びに後悔したりしているのは、まさに手にしたもので幸せになれなかったことを物語っていますね。

いったいどうして、切望していた目標を達成したり、ほしいものを手に入れたりしたのに、ガッカリしてしまうのでしょうか。

未来を想像したときに、共通した誤りを犯している

それは、私達は未来を想像するとき、誰もが規則正しく、共通した誤りを犯してしまうから、といわれています。

  • 人間はどのように自己の未来を想像しているか
  • なぜ未来の自分の考えや感情をほとんど正確に理解できていないか

そのメカニズムが紹介されているのが『明日の幸せを科学する』です。

その脳の仕組みの問題点をあらかじめ知ることで、よりよい選択をするのも可能になるのですね。

人間が未来を“想像”できるのは「前頭葉」が急速に成長したから

ほかの動物とは違い、唯一人間だけが過去や現在にないものを想像して未来を考えることができるのは、前頭葉が急速に進化したからです。

前頭葉を損傷した患者さんは、知能検査や記憶検査などでは標準的な成績を収め、日常生活には大きな問題はありませんでしたが、
計画性に関わる検査では重度の障害を示していたことがわかりました。

つまり、前頭葉の損傷によって未来について考えることができなくなったといえるのであり、前頭葉の進化によって私達人間だけが未来を考えられる(想像できる)のですね。

前頭葉を損傷した患者に見られた2つの面

前回の詳細はこちら

なぜ想像した未来が実現しても幸せになれないのか?-『明日の幸せを科学する』から知る“未来を予測する脳のメカニズム”①
ハーバード大学の人気教授 ダニエル・ギルバート氏の『明日の幸せを科学する』を通して、“脳のメカニズム”をご紹介していきます。 明日の幸せを科学する 『明日の幸せを科学する』の主題-人間の脳は自分の未来をどう予想しているのか ...

今回は、私達が未来について考えることをやめられない理由をご紹介していきます。

人が未来について考えるのをやめられない理由

私達は未来について一番考えている

前頭葉が爆発的に成長したことで、私達は未来について考えることができます。しかもそれはほとんど苦もなくできることです。

過去・現在・未来について、それぞれどのくらい考えるかを尋ねれば、人々は「未来について一番考える」と答える、といわれています。

研究者が、平均的な人の「意識の流れに浮いている項目」を数えてみたところ、1日の思考の約12%が未来に関するもの、という結果も出ているそうです。
8時間考えているとすれば、そのうち1時間は、まだ起こっていない出来事・未来を考えていることになるのですね。

なぜ私達は「今、ここ」にとどまらずに、これほど未来に目を向けているのでしょうか。

未来を考えるのをやめられない理由①-私達は空想することが大好き

未来をこれだけ考える理由の1つは、「未来について考えるのが楽しいから」といわれています。

  • 野球の試合で決勝打を放ち、大活躍しているところ
  • 宝くじが当たって、大金を目の前にしているところ
  • 魅力的な異性と知り合い、しゃれた会話を楽しんでいるところ

などを想像するのは、こうした可能性を想像すること自体が楽しいからですね。

人は、未来を空想するとき、挫折した自分や失敗した自分より、やり遂げた自分や成功した自分を思い浮かべる傾向がある

ということも研究で確かめられているそうです。

それどころか、未来について考えるのがあまりに心地よいため、実際に体験するより、それについてただ考えるほうを好むことさえある、ともいわれています。

ある研究で、志願者に片思いの相手をデートに誘う方法を想像させたところ、

憧れの人と親しくなるのに手の込んだ素敵な方法を空想した志願者に限って、その後数カ月は実行に移さない傾向が見られた、というということもわかったそうです。

シミュレーションしたことは永遠に先延ばしにされることもあるのですね。

楽しい未来を想像することの危険性

幸せな未来を想像すると、幸せな気分になれます。これ自体、何も悪いところはなさそうに見えますね。

しかし、時にそれは厄介な影響を及ぼす、といわれています。

それは、人はある出来事を簡単に想像できると、その出来事が実際に起こる確率を過大に見積もる、ということです(研究結果としても出されているそうです)。

先でお話ししたように、私達ははたいてい、悪いことより良いことを想像しています。
すると、良いことが起こる確率を高く見積もりがちで、非現実的なほど未来を楽観してしまうこともあるのです。

アメリカで行われた調査によると、アメリカの大学生は、

  • 自分が平均より長生きする
  • 結婚生活を長く維持する
  • ヨーロッパ旅行を多くする
  • 才能のある子どもに恵まれる
  • 持ち家に住む
  • 新聞に載る
  • 心臓発作や性病やアルコール依存症や交通事故や骨折や歯周病にはみまわれない

と思っている、といわれています。

さらにどの年齢層のアメリカ人も、自分の未来は現在より良くなると予想しているそうです。

アメリカほどではないにしても、ほかの国の人も、自分の未来が同輩の未来より明るいと予想する傾向があるとわかっています。

私達は楽しいから未来について考えているのですが、そうなると、やたらと未来を楽観視してします。
その習慣は、そう簡単にはやめることができないのです。

楽観的に物事を考えることも必要ですが、それが過剰になってしまえば、とるべき対策をとらなくなってしまったり、準備を怠ってしまったりして、後悔することにつながります

未来を楽観視しすぎてしまい、良いことが起こる確率を過大評価する傾向にある…。

そのことがわかれば、

  • 夢想して気分を良くするだけで終わってしまっていないか
  • 備えをおろそかにしてはいないか
  • 明るい未来を実現させるための努力をしているか

ということも常々、振り返っていかねばならないと気づきますね。

未来を考えるのをやめられない理由②-悪い出来事への衝撃を和らげられる

ただ、私達がシミュレーションしている未来は、楽しいことばかりではありません。

日常のわずらわしいことや不快なこと、また、未来のそら恐ろしいことである場合も多いです。

  • 仕事で大きな失敗をしてしまうのではないか
  • 人間関係で気まずい思いをするのではないか
  • 健康診断で悪い病気が見つかるのではないか

など、悪い未来をイメージし、自分自身を恐怖におとしいれることもあります。

なぜわざわざ、恐ろしいイメージを思い浮かべるのでしょうか。

その理由の1つが、好ましくない出来事を想定しておくことで、実際に良くない出来事が起きたとき、それから受ける衝撃を最小限に抑えられることです。

これについて、ある実験が紹介されていました。

それは、実験志願者に警告してから3秒後に右足首に電気ショックを与え、これを20回繰り返す、というものです。

この実験では、高ショック群と低ショック群の2つのグループに分けられ、

高ショック群の志願者は高電圧のショックを20回、
低ショック群の志願者は高電圧のショックを3回と低電圧のショックを17回、受けることになりました。

すると、低ショック群のほうが高ショック群より電圧が低かったにもかかわらず、心拍は速く、発汗量は多く、(自己評価による)恐ろしさの度合いも高いという結果が出たのです。

電圧が低かったにもかかわらず低ショック群の志願者が実験をより恐ろしく感じたのは、そのときによって強さの異なるショックを受けたせいで、「今回は大きな電圧がくる」という未来を予測することができなかったから、といわれています。

先読みすることができれば、大きな衝撃であっても、心の準備ができている分、感じる痛みが軽減されたと感じます。
しかし先読みできないショックは、心の準備ができないことで、より痛みを感じてしまうのですね。

この実験から、悪い出来事を想像しておくことで、確かに実際にその出来事が起きたときの衝撃を和らげることができるとわかりますね。

未来を考えるのをやめられない理由③-恐れや心配、不安によって特定の未来を防げる

好ましくない出来事を想定する2つめの理由としては、恐れ・心配・不安が私達の生活に役立つから、といわれています。

悪い未来を予想すれば、その未来に対しての恐れや不安な感情がわき起こります。すると、「こんな嫌な結果を受けないようにしよう」と、正しい行いをする気が起こるのですね。

未来の先読みは「恐れ読み」になる場合がある、といわれています。研究によって、恐れ読みは、慎重で予防的な行動をとらせるのに効果的な場合があるともわかっているのです。

このように、私達が未来について考えるのは、それ自体が楽しく、喜びを与えてくれるものであるから(時には、実体験よりも楽しいとさえ思う)、

また、悪い未来を想像する場合も、それによって衝撃・痛みを防いでくれること・恐れや不安によって行いが正されて特定の未来を防げるからであるとわかりました。

ところはギルバート教授は、それらとはほかに、未来について考える最大の理由があるといわれています。
それについては次回、お話ししていきます。

まとめ

  • 私達は未来について一番考えている、1日の思考時間も未来の割合が意外に多い、といわれています。その理由として以下の3つが挙げられています
    1. 私達は空想することが大好き-
      私達は未来について考えるとき、楽しいことを思い浮かべやすく、その心地よさから未来をよく考える、私達は空想が大好き、といわれています

      • 楽しい未来を想像することの危険性として、簡単に想像できる良い未来は、それが起こる確率を過大に見積もる傾向にあることがいわれています。
        未来を過剰に楽観視すれば、とるべき対策をとらずに後悔する可能性が高くなってしまいます
    2. 悪い出来事への衝撃を和らげられる-
      悪い出来事を先読みすることで心の準備ができて、衝撃や痛みを軽減することができます
    3. 恐れや心配、不安によって特定の未来を防げる-
      未来の先読みは「恐れ読み」になる場合があり、それによって悪い結果を避けるための 正しい行動をとれるようになります

続きの記事はこちら

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