ハーバード大学の人気教授 ダニエル・ギルバート氏の『明日の幸せを科学する』を通して、“脳のメカニズム”をご紹介していきます。
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『明日の幸せを科学する』の主題-人間の脳は自分の未来をどう予想しているのか
私達は日々、さまざまな選択をしています。
その選択基準は、
「どうすれば未来の自分を満足させられるか、幸せにしてあげられるか」
ということでしょう。
- おいしいけれども健康に悪いもの食べないようにする
- お酒やタバコはできる限り控え、禁酒・禁煙に努める
- 上司のくだらないジョークにも愛想笑いを浮かべる
など、多くの場合、気ままに好き放題するのではなく、未来の自分がよりよく幸せに過ごせるための選択をしていると思います。
「後がどうなろうと関係ない。今さえ楽しければいい。今が楽でありさえすればいい」
と、脂分の多い不健康な食事を取り続け、嗜好品に興じ続け、上司の言うことなんて聞いていられないと会社を辞める、といった生活を送っている人はかなり少数派ですよね。
退職後に安定した生活を送れるように貯金をしている人、
生活習慣病で苦しむことのないように健康的な食事や定期的な運動に心がけている人、
一家団欒のために忍耐強く育児をされている人、
いずれも未来の自分を喜ばせるための選択をしている人といえるでしょう。
貯金をしている | 定期的な運動 | 育児 |
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退職後のことまでを見据えなくても、昇進なり、結婚なり、車なり、お気に入りのお菓子なり、それを手にすれば未来の自分は満足するだろうと考えて、それを手にするための選択をしています。
では、その選択によって、未来の自分は本当に満足し、過去の自分に感謝しているのでしょうか?
「これが手に入れば幸せになれる!」と思ったものを手にしても幸せになれていない
未来の自分の幸せのために努力をしていても、必ずしも未来の自分は幸せを感じているとは限りません。
それどころか、「こんなもののためになぜ自分はがんばってきたのだろう」と恨むことさえあります。
それとは反対に、満足するのに欠かせないと思っていた称賛や報酬を手に入れそこねたにもかかわらず、「見当外れの計画が、予定通りに運ばなくてよかった」と安心することもありますね。
求めて、うまく手に入れたものが未来の自分を幸せにはせず、避けようとしても避けられなかったものが未来の自分を幸せにすることもある…。
なぜそうなってしまうのでしょうか。
来年の自分がどんな好みや欲求や希望を持っていて、何を実現すれば幸せになれそうかくらいはわかっていてもよさそうですよね。
もっと未来の自分を理解していてもいいはずです。
ところが、自分に必要だと思っていたものが、未来の自分には厄介もの・無用なものでしかなくなり、そんなものが人生にあふれかえってしまっています。
- ようやく就いた仕事にがっかりして、転職を希望している
- 寄り添い続けるはずだったパートナーに失望して、相手選びのまずさを痛感している
- 健康管理のために買ったものを、数回のみで使わなくなり、物置きに並べている
など、思い当たることもあるでしょう。
いまの仕事にがっかりし、転職を希望する | パートナーに失望し、相手選びを後悔する |
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未来の自分のために時間も労力も使ってきたにもかかわらず、いったいどうして、切望していた目標を達成してがっかりしてしまうのでしょうか。
人間の脳は誰もが共通して、規則正しく間違いを犯す
これについて、私達を未来を想像するときに、誰もが規則正しく、共通した誤りを犯してしまうことにある、といわれています。
下の錯視の図(ルビンの壺)を見て、
最初は誰もが壺の絵(あるいは壺の写真)に見えますが、だんだんと横顔へと変わり、そのときに目をパチパチさせるとまた壺の絵に戻るでしょう。
出来がよくて魅力的な錯視は、誰もが同じ見方の誤りをするようにできています。
ちょうど同じように、私達の脳はみな共通して、未来を想像するときに法則通りに間違いを犯すのです。
私達の先を見る力、先見の力には限界があるのですね。
ギルバート教授はこれこそが『明日の幸せを科学する』の主題であると明言され、さらにこう言われています。
この本は、人間の脳が自己の未来を想像したり、どの未来がもっとも喜ばしいかを予測したりするしくみと精度を、科学で説明しようというものだ。
過去二〇〇〇年以上にわたって多くの思想家が熟考してきた難問を論じた本であり、思想家たちの考え(と、若干のわたし自身の考え)をもとに、未来の自分であるはずの人物の感情や思考が、どうもわれわれにはほとんど理解できないらしい理由を明らかにする。
人間の脳はどのように自分の未来を想像しているのかということと、
未来の自分の感情や思考を予想しつつも、実際にそれらをほとんど正確に理解できていない理由が紹介されているのですね。
この本を通して、未来を想像する脳の仕組みの問題点や限界をあらかじめ理解しておくことで、誤った選択や判断を完全になくすことはできないものの、よりよい選択をすることは可能となるでしょう。
これからの記事で、私達が犯してしまう脳の錯覚や妄想、その原因についてお話ししていきます。
人間はなぜ予想をするのか?-爆発的成長を遂げた“前頭葉”の働き
“予測する”と“想像する”は似て非なるもの
ギルバート教授は、「唯一、人間だけが未来について考える」と言及されています。
人間以外の動物が未来について考えているように見えることがあっても(毎年秋になると、リスがせっせと動きまわり、巣に食糧を貯めるようになる)、
それはあくまで本能的にそのようにしているだけ(リスは目に入る日光が一定の量だけ減少すると、脳内で餌を貯めるプログラムが作動する)で、未来について考えているわけではないのです。
私達人間は、ほかの動物にはできないやり方で、未来について考えています。それが人類の決定的な特徴の1つなのですね。
このほかの動物にはできないやり方とは、現実の領域には存在しない物事や出来事を“想像する”して未来を考える、ということです。
人間以外の動物でも過去を思い出したり、現在の状況を見ることはでき、その2点から、次にどんなことが起こるのかを“予測する”ことはできます。
簡単な予測は、高度な脳のない動物にも可能です(例として、脳を持たないアメフラシであっても、簡単な訓練によって予測することを覚えて、エラへの電気ショックを避けることができる、といわれています)。
しかし人間以外の動物が、過去や現在には存在しないものを“想像する”ことは不可能です。人間しか作り出すことができない未来(=想像)は、予測とはまったく別物なのですね。
では、なぜ人間だけが想像することが可能なのでしょうか。
それは、人類の脳が爆発的な成長を遂げたから、人類の脳に“前頭葉”が新しく加わったからだ、といわれています。
前頭葉のおかげで、人間は“予測とは根本的に異なる未来”を考えられるようになったのです。
前頭葉を損傷した患者に見られた2つの面
前頭葉を損傷した患者さんは、知能検査や記憶検査などでは標準的な成績を収め、日常を送るうえで大きな問題はありませんでしたが、
計画性が関わる検査では、どんなに単純なものでも重度の障害を示していることがわかりました。
前頭葉の特定の場所に損傷を受けると、不安が消えて心が平静になる、うつの状態が軽減されるといった場合もありますが、同時に計画を立てられなくなることもあります。
それはつまり、未来について考えることができなくなっていることを示唆しているのですね。
前頭葉がなければ私達は明日を想像することができず、ゆえにそこに何が待っているかを心配することもありません。
このように、前頭葉が進化したことで、唯一、私達人間だけが未来を考えられるようになったのです。
この未来について考えることは、私達はやめることができず、
また、私達は未来を考えるのが好きである、ともいわれています。
その理由については次回、詳しくご紹介していきます。
まとめ
- 私達の日々の選択の基準は「どうすれば未来の自分を幸せにしてあげられるか」ということでしょう。私達は多くの場合、未来の自分を喜ばせるための選択をしています
- しかし求めていたものが手に入っても幸せにはなれず、手にしたものを不要と感じることさえあります。それは、私達は未来を想像するとき、誰もが規則正しく、共通した誤りを犯してしまうからです
- 『明日の幸せを科学する』の主題は、人間はどのように自己の未来を想像しているか、なぜ未来の自分をほとんど正確に理解できていないかを明らかにする、というものです。その脳の仕組みの問題点をあらかじめ知ることで、よりよい選択をすることも可能になります
- ほかの動物とは違い、唯一人間だけが過去や現在にないものを想像して未来を考えることができるのは、前頭葉が急速に進化したからです。それは、前頭葉を損傷した患者さんに、不安感が消えるとともに 計画性がなくなってしまった症状が見られたことからわかります
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